普通の女子高生、でもお母さんがクラスメイト。そんなパラドクス。
演出の仕様が大好きです。
本作品は、4コマの可能性に対して非常に意欲的です。
4224さん「グレーゾーン」という読み切り作品をご存知でしょうか。
4コマの枠を取り払い、視線誘導のみで4コマを表現した、色んな意味で次元の違う読み切り4コマ作品。
4コマ界にもたらした衝撃は計り知れないものがありました。
参考
:Twitter / muimui68: まんがタイムきららMAX 2012年8月…
:4224「グレーゾーン」言及ツイートまとめ - togetter
様々な物議を醸したこの方式を、カラーページで積極的に取り入れたのが塀さんです。
またこれだけでなく、2コマ目を隣の1本と繋げて会話のクロスっぷりを表現したり。
4コマという、「枠が固定」であることを活かした演出を行ったりもする。イカす!
3段ぶち抜き構成は比較的よく見られる手法ですが、明確にコマを割った上で時系列表現も加えられているパターンなどの複合手法も。
また、グレーゾーン手法を取り入れたイヴ登場回も演出の塊で要注目ですよ。
数々の手法を取り入れ、活用するのはさながらミステリィ小説のよう。
叙述トリック同様に、かつてない手法と演出がハマった際は読んでいて気持ちが良いものです。
と、まあこれらの点は「たらちねパラドクス」で最も特徴的な点であるため他の方も語られていると思います。
天邪鬼な私は別の視点。内容に関して掘り下げてみようと思います。
(一周りした感を心の奥底に押し留めつつ)
「たらちねパラドクス」は、強引にジャンル分けをしますと女子高生日常系4コマに大別されるかもしれません。
ただ、一番ユニークな点は、32歳のお母さんが同級生にいること。しかも娘と同じクラスに。
16歳の女子高生であるあかしさんと、そのお母さんである32歳のすだちさんが同じ教室で同じ授業を受けているのです。
一体全体どういう状況!? となるところを、これまたユニークなことに一切説明解説なく物語が進みます。
そのため私はこの作品を、単純な「女子高生日常系4コマ」に大別することが出来ないでいます。
そう、この謎は作者から読者に与えられた「ミステリィ問題」なのです。想像を膨らませてあれこれ妄想してみましょう。
題して、32歳で女子高生。すだちさんにまつわる6つのふしぎ。
■不思議その1:32歳で高校生ナンデ!?
何故32歳で高校生をしているのか、未だに明かされていません。
送ることが出来なかった高校時代を取り戻そうとしているのでしょうか。
高校時代を送れなかったのかどうかは劇中でまだ判明していません
ただ、すだちさんは16歳の時点で妊娠していたことになります。
可能性は高いですね。
■不思議その2:娘とクラスメイトなのナンデ!?
高校生をしているのが先の通りだったとしても、こちらの謎は残ります。
母親がクラスメイトというのは色んな意味で怖かろうに、
娘と同じクラスで授業を受けるというのも恥ずかしかろうに、
何故あえてそこに挑むのか。
チャレンジャー?
■不思議その3:32歳に見えない容姿ナンデ!?
「これが…経産婦…だと…ッ!?」 驚愕ですね。驚異ですね。
ちなみにすだちさんのお姉さんも非常に似た容姿をしているようです。ヤバい。
※画像は荒井チェリーさん「未確認で進行形」3巻
■不思議その4:娘と言葉が違うのナンデ!?
娘のあかしさんは阿波弁をしゃべります。
関西弁と似て非なる独特のイントネーションは方言女子という可愛らしさの象徴。
言い換えると萌え要素。
阿波弁でしゃべる理由自体は劇中で語られています。そうした状況になったことも語られています。
ただ、何故そうした状況になったのかは不明なのです。ホワイダニット。
■不思議その5:海外在住歴が長いのナンデ!?
すだちさんは幼いあかしを阿波弁環境に置いて、海外で生活をしていたことになります。英語だってペラペラ。
そうせざるを得なかったすだちさん。それは現在女子高生をやっていることと関係があるのでしょうか。
ちなみにこの謎は、次々回での演出の伏線になっています。
■不思議その6:旦那が不在なのナンデ!?
未だ描かれていない旦那の姿。海外赴任していること以外、どこで何をしているのか、情報が出ていません。
あ、巻き寿司が好きらしいですね。
死別していません。生きています。それどころかラブラブらしいです。(チッ
その表情から見て取れる感情からは、後ろ向きな印象を受けません。
つまり、すだちさんと旦那の間にはそうした悲壮感めいたものは存在しないのでしょう。
ひょっとすると、男キャラを出さない方針かもしれません。
あ、ムナカタ先生の弟さんは出てきたっけ。
やりすぎるとネタバレになりそうで6つで留めてしまったヘタレな私をどうか責めないでやってください。
7つの不思議にした方が語呂的にも良かったんに!!
ともあれ、2巻に収録されるエピソードだと思いますが、すだちさんが幼少期のあかしを置いていった過去が描かれる回があります。
離れて暮らす生活が終わり、同居するようになった時期も明らかになります。
その際も全てが明かされるわけではありませんが、ぽろっと零れ落ちたピースがはまっていくように、判明していきます。
ただそれも、我々は推測するのみ。想像の翼が羽ばたきます。
謎はそのまま伏線です。回収されない伏線はクソだと誰かが言いました。
(誰が言ったか知りませんし、言われたのかすら知りませんけども!)
しかし伏せたまま敢えて描かない伏線は演出と言います。
(実際にそう言うかどうか知りませんとも!)
そう例えば、WA2ndのミレニアムパズルにおけるリルカの姉のように……と言って伝わるのか判りませんが。
読者の特権の一つに「行間を読むこと」があると私は思っています。
国語の授業でよくある「この時の主人公の気持ちを答えなさい」といった類の問題。
意味があるのか理解し難い、「そんなん知るか」「判るのは作者だけだ」と思わずにいられない設問ですが、あれは生徒の想像力を鍛えるためにあります。
(たぶん。きっと、そうであると、信じてます。信じさせて)
想像力って大事です。
理解力を早めるための想像力。理系だろうが文系だろうが重要なスキルです。
そのスキルを活用する場所の一つが、こうした作品を読んだ際に「行間から出来事などを
ほら例えば、ラブライブ!2期11話で、「3年生が卒業するにあたって6人で話し合った」具体的な内容。どんなものだったか妄想しちゃいますよね。(もう、妄想でいいや)
少し話がズレました。
明確に「想像する余地」という釣り糸が垂らされている形なのは、「たらちねパラドクス」がミステリィ的であるため。
一風変わった設定の4コマはいくつもあります。その設定は最初に理由が明確化された上でキャラクタが作られ、そのキャラクタが物語を作っていきます。これは割と一般的な、オーソドックスなプロットの作り方かもしれません。 そこを逆手に取って、あえて説明をせず徐々に明かしていく物語の進め方を取る。「たらちねパラドクス」が単純な「女子高生日常系4コマ」に大別されない理由はここにあります。 (この点は掘り下げると面白いかもですね。特に棺担ぎのクロやミラク作品と絡めると)
しかし、ミステリィポイントである「すだちさんは32歳で母親」のフィルタを外すと途端に「女子高生日常系4コマ」になります。
といいますか、すだちさんが32歳という事実はその幼すぎる容姿のために忘却の彼方へすっ飛んでしまうこともあるわけですが。
全ては作品を彩る演出なのです。
…とかいうこの言葉一つに集約するのは乱暴だと思いますが、書き出しているうちに何やら全て計算づくのような気もしてきましたよ。
…乱暴ついでに言います。
ミステリィ好きは演出好きです。(暴論
演出好きは4コマ好きです。(何段かすっ飛ばした暴論
演出の凝った4コマは、4コマ好きにとって大好物なのです。(乱暴な結論
そんな大小様々な数々の演出が散りばめられた「たらちねパラドクス」
オススメです。
個人的に好きなのは、魔法少女回。演出もさることながら魔法少女論が鋭く冴え渡るエピソード。
この扉絵だけでもう脳内の端々から色々と湧き出してきますね。
なんだかんだ語ってきましたが、それでなくても32歳女子高生の可愛いところが見れる塀さん「たらちねパラドクス」1巻は、6月21日発売!